割れた器をくっつけているのは、小麦粉と漆でした|金を蒔くのは最後の一手

割れた器をくっつけているのは、小麦粉と漆でした|金を蒔くのは最後の一手

金継ぎと聞いて思い浮かぶのは、たぶん、割れ目に金色の線が走っている器の写真だと思います。私もそうでした。金でくっつけている、くらいのイメージでいました。

調べてみたら、そこは思っていたのとだいぶ違いました。割れをくっつけているのは金ではなく、漆に小麦粉を混ぜたものです。金は、いちばん最後に薄く蒔くだけ。しかもその漆は、乾かして固めるのではなく、湿らせて固めます。

知らなくても金継ぎはできます。ただ、工程の順番を先に知っておくと、なぜ何週間もかかるのかが腑に落ちるので、その話をまとめます。

金は、接着剤ではない

本漆の金継ぎでやっていることは、ざっくり言えば「漆で直して、最後に金の粉を蒔く」です。直す仕事は全部、漆が引き受けています。

もともとは金の粉を使わず、「漆継ぎ」と呼ばれていた、という説明もあります。金を蒔くようになったのがいつからなのかは、はっきりしていません。

工程は、大きく4つ

1. 麦漆でくっつける

割れた破片どうしを接着するのに使うのが「麦漆(むぎうるし)」です。中身は、小麦粉と水と漆。これを練って接着剤にします。

台所にあるものと樹液です。ここがいちばん意外でした。

2. 錆漆で埋める

欠けて足りなくなっている部分は、「錆漆(さびうるし)」で埋めます。砥の粉(といのこ/石を細かく挽いた粉)と水と漆を練った、粘土のような漆です。

この工程が、金継ぎのなかでいちばん時間がかかると言われます。大きな欠けだと一度では埋まらないので、4〜5回に分けて盛っては固め、盛っては固めを繰り返します。

3. 漆を塗る

埋めたところを平らに整えて、その上に漆を塗ります。仕上げを金にするか銀にするかで、下に塗る漆の色を変える、という作り方をする人もいます。

4. 粉を蒔く

塗った漆が固まったら、同じ面にもう一度、薄く漆を塗ります。そして、乾ききらないうちに素早く金の粉を蒔く。漆が粉を受け止めて、そのまま固まります。

「塗る」ではなく「蒔く」と言うのがこの工程の呼び方です。粉を蒔いて模様を描く蒔絵と、同じ動詞が使われています。

全部あわせると、数週間から数ヶ月。1日で終わる作業ではありません。

漆は、乾かすのではなく湿らせて固める

なぜそんなに時間がかかるのか。漆の固まり方に理由があります。

漆はいわゆる「乾燥」で固まりません。漆の主成分であるウルシオールが、ラッカーゼという酵素の働きで、水分と酸素を介してつながり合い、強い膜になる。化学反応です。

つまり、水分が要る。からっと乾いた部屋に置いておくと、いつまでも固まらないということになります。

だから、漆を塗ったものは「室(むろ)」という湿度を保った箱に入れます。目安として、気温24〜28℃・湿度65〜85%といった数字が挙げられることが多いようです。職人さんは部屋ごと室にしてしまうこともありますが、金継ぎくらいの大きさなら、プラスチックの衣装ケースや段ボール箱で代用する人もいます。

濡れた布を入れた箱に器をしまって、数日待つ。待っているあいだに何かしているわけではなく、ただ置いておく。工程の大半はこの待ち時間です。

漆にかぶれる、という話

もうひとつ、先に知っておいたほうがいい話があります。漆はかぶれます。

原因はウルシオールで、液体の漆が皮膚に付いたときに炎症が起きます。厄介なのは、付いてすぐではなく数時間から一週間ほど遅れて出てくることです。だから、教室ではゴム手袋やアームカバーを着けて作業します。付いてしまった場合は油で拭き取ってから石鹸で洗う、という手順が案内されています。

体質によって出方が違うので、心配な方は事前に聞いてください。

なお、これは作業中の話です。しっかり硬化したあとの漆の面からウルシオールが溶け出すことはほぼない、と説明されており、直し終えた器は食器として使えます。

ただし、樹脂を使う簡易金継ぎのキットは事情が違います。食品衛生法に適合していない製品もあるので、口をつける器に使うなら「食品安全」「食品衛生法適合」の表示を確認してください。本漆と簡易では、手間も仕上がりも安全性の考え方も別ものです。この違いは金継ぎの方法を比べた記事のほうが詳しいです。

直した跡を、隠さない

ここまで工程の話をしてきましたが、そもそも修理なのに、なぜ目立つ色で仕上げるのか。

金継ぎの始まりは15世紀の日本、室町時代あたりとされています。ただ、いつ誰が始めたかという確かな記録があるわけではなく、茶の湯の広がりがきっかけという説が有力、という書かれ方をしていることが多いです。高価な茶器が欠けたときに、機能を戻すだけでなく、直した跡そのものを見どころにした、という流れです。

金継ぎでは、直した部分のことを「景色(けしき)」と呼びます。傷ではなく、景色。呼び方が全部を言っている気がします。

この考え方のところは、金継ぎとは何かをまとめた記事と、漆という素材についての記事で掘り下げています。

予習しなくても、手は動きます

長々と書きましたが、金継ぎを始めるのに予備知識は要りません。麦漆の配合を覚えていく必要もないですし、手順はその場で教われば大丈夫です。

ただ、「今日は接着だけで終わり」「次は2週間後」と言われたときに、待ち時間が手抜きではなく漆の都合なのだと分かっていると、待つのが少し楽しくなると思います。

アムでも、金継ぎの時間をつくっています。持ってくるのは、欠けた湯のみでも、割れた小皿でも構いません。開催日はInstagramでお知らせしています。

器や工芸そのものをもう少し見たい、という方は、美術館やギャラリーをまとめたページも置いています。アムは金沢市東山にあるので、まわりを歩く順路と合わせて考えてもらってもいいかもしれません。

参考にした資料