ZINEは「マガジン」の後ろ半分だった|手で作る冊子の来歴

ZINEは「マガジン」の後ろ半分だった|手で作る冊子の来歴

ZINE(ジン)という言葉を、本屋さんの棚やイベントの告知で見かけることが増えました。手のひらサイズのうすい冊子で、中身は日記だったり、写真だったり、好きなものについての語りだったり。ひとことで説明しづらいのに、なんとなく「そういうもの」として通じてしまう言葉です。

アムでも以前、「ちょっとZINE気になる会」という、ZINEについてみんなで話す会を開いたことがあります。そのときにも「ZINEって、そもそも何の略なんですか」という話が出ました。調べてみると、この言葉には百年近い来歴がありました。

ZINEは「magazine」の後ろ半分

ZINEは、magazine(マガジン)の後半だけが残った言葉です。

もとになったのは「fanzine(ファンジン)」。fan(ファン)とmagazine(マガジン)をくっつけた造語で、1940年10月、アメリカのSFファンだったラス・ショーヴネ(Russ Chauvenet)が、自分の出していた『Detours』という冊子の中で使ったのが最初とされています。それまでは「fanmag」と呼ばれていたそうです。

この「fanzine」がさらに短くなって「zine」になりました。つまりZINEという言葉は、雑誌の名前の一部が独立して、別のものを指すようになったものです。

「ファンのための」だけではなくなった

語源をたどると「ファンが作る雑誌」ですが、いま使われているZINEは必ずしも何かのファン活動とはかぎりません。個人が自分で作って、自分で配る少部数の冊子、というくらいの広い意味で使われています。

はじまりは1930年、SFファンの手作り冊子

言葉より先に、ものの方がありました。最初のSFファンジンとされているのは、1930年にシカゴのScience Correspondence Clubが出した『The Comet』です。編集はレイモンド・A・パーマーとウォルター・デニス。まだ「fanzine」という呼び名が生まれる10年前のことです。

当時の複製手段は、いまのようなコピー機ではありませんでした。ゼラチンに染料を移して刷る「ヘクトグラフ」や、タイプライターで蝋引きの原紙を切ってインクを通す「謄写版(ミメオグラフ)」。日本でいう、あのガリ版に近いものです。何十部か作るだけでもそれなりの手間がかかる時代に、それでも自分たちの雑誌を作りたい人たちがいた、ということになります。

コピー機が来て、一気に速くなった

ZINEの歴史でよく名前が挙がるのが、1976年にイギリスで生まれた『Sniffin’ Glue』です。作ったのはマーク・ペリー。ラモーンズのロンドン公演(7月4日)の直後に作りはじめ、12号まで続きました。すべてコピーで刷られています。

タイプライターとマジックペンで書いて、コピーして、留めて、配る。きれいに整えることよりも、いま思っていることを早く形にすることが優先された作りでした。パンクのDIY精神を紙の上でやった例として、いまも引き合いに出されます。

1990年代、切って貼って書く

1990年代のアメリカでは、riot grrrl(ライオット・ガール)と呼ばれる動きのなかでZINEが広く作られました。バンドBikini Killのメンバー3人が、1991年の最初のツアーに合わせて作った同名のZINEはその代表格です。

作り方は、文章を印刷して切り、紙に貼って、余白に書き込む。関わっていた人たちの証言にも、白い切り抜きを黒い紙に貼って縁取りを作った、といった具体的な手つきが残っています。

当時、こうした動きを取り上げる媒体はほとんどなく、既存のメディアに載らない考えを流通させる手段として自主出版が選ばれた、という背景もあったようです。

日本には「ミニコミ」という言葉があった

日本で自主制作の冊子を指す言葉として長く使われてきたのが「ミニコミ」です。これは和製英語で、新聞やテレビのような「マス・コミュニケーション」に対する言葉として、1960年前後の社会運動のなかで生まれたとされています。ガリ版で刷られた、部数の少ない印刷物を指す言葉でした。

ZINEとミニコミは、生まれた場所も時期も別々です。どちらが先とか、同じものだと言い切れるものでもありません。ただ、「大きな媒体に載らないことを、自分の手で刷って渡す」という点は、どちらにも共通しています。

作る前に知らなくていいこと、知っておくと少し楽しいこと

ZINEを作るのに、この歴史を知っている必要はまったくありません。紙を折って、書いて、留めれば、それでもうZINEです。実際、最初のriot grrrlのZINEは、A4に近い紙を一枚、四つ折りにしただけのものだったと記録されています。

ただ、「うまく作らなくてもいい」というこの形式の気楽さが、九十年以上前から変わっていないと知ると、最初の一冊のハードルが少し下がる気もします。ヘクトグラフでも、コピー機でも、いまのプリンターでも、やっていることはほとんど同じです。

アムには、写真集やアートブック、小さな出版社の本が並んだ棚があります。判型も綴じ方もばらばらなので、作ってみたい気分になったときに手に取ってみると、案外そのまま参考になります。印刷物やアートに触れる場所をもう少し広く探したい方は、金沢のアートスポットをまとめたページもどうぞ。

本について誰かと話す場のことは、読書会について書いた記事にもまとめています。

参考にした資料