アムにレコードプレイヤーが来ました。おかげで、店でレコードを流せるようになっています。
それで気づいたのですが、レコードは針を落とす前に一手間あります。回転数を選ぶスイッチがあって、33と45と書いてある。盤によってどちらかに合わせないと、声が低くなったり、早口になったりする。
なぜ2つあるのか。調べてみたら、1948年に始まった規格争いがそのまま残っているだけでした。予習しないと聴けないという話ではまったくないのですが、知っておくとスイッチを切り替えるときに少し面白い、という程度の話をまとめます。
そもそも、その前は78回転だった
33でも45でもなく、1分間に78回転する盤が長いあいだ使われていました。イギリスのグラモフォン社が1912年に78回転を自社の標準とし、1925年ごろには業界全体で標準になっています。
では、なぜ78なのか。ここが少し拍子抜けするところで、理由は分かっていません。Wikipediaの記述を借りると、初期の機械がたまたまその速度だった、というだけで、それ以外の理由もなく使われ続けた、とされています。1912年に標準として決めたときの根拠も「それまで出していた録音の平均値」でした。
この78回転の盤は、シェラック(ラックカイガラムシから採れる樹脂)で作られていました。溝を細かく刻むと崩れてしまう材質なので、収録時間が短い。10インチ盤で片面およそ3分半、12インチ盤で4〜5分ほどです。
曲が終わるたびに盤をひっくり返すか、次の盤に替える。それが当たり前だった時期が、30年以上ありました。
1948年6月21日、片面20分の盤が出てくる
その状況を変えたのが、コロムビア・レコードのためにCBS研究所が開発したLPです。1948年6月21日、ニューヨークのウォルドルフ=アストリアで記者会見が開かれ、10インチと12インチの2種類が発表されました。
回転数は33回転(正確には33と3分の1回転)。溝を細くして密に刻むことで、片面に少なくとも20分入るようになりました。3分半が20分です。
この差が何を意味するかというと、たとえば交響曲の1つの楽章を、途中で止めずに最後まで聴けるということです。それまでは数分ごとに立ち上がって盤を替えていたわけで、聴き方そのものが変わる変化でした。LPという呼び名も Long Play、つまり「長く再生できる」から来ています。
翌年、RCAビクターが45回転を出した
ところが翌1949年、RCAビクターが別の規格を出します。直径7インチ、中心に大きな穴の開いた盤で、回転数は45。
コロムビアの33回転とは互換性がありません。同じ音楽を聴くのに、対応していないプレイヤーでは再生できない盤が2種類、市場に並ぶことになりました。この状況は英語で “War of the Speeds”、直訳すると「速度の戦争」と呼ばれています。
決着は、勝ち負けではなく住み分けだった
結末は、片方が消えるという形にはなりませんでした。
1950年1月、RCAビクターが自社で初めてのLPを発売します。翌1951年2月には、コロムビアが初めての45回転盤を出しました。両社がお互いの規格を採り入れた、ということです。
そして、長い曲をまとめて収めるアルバムはLP(33回転)、1曲か2曲だけのシングルは7インチ(45回転)という役割分担に落ち着きました。いま手元にあるレコードプレイヤーに33と45の切り替えがあるのは、この住み分けがそのまま生き残っているからです。
ちなみに78回転は、この2つに押されて姿を消していきました。古いプレイヤーには78の目盛りが残っていることがあります。
溝は、1本しかない
もうひとつ、針を落とすときに思い出すと少し不思議な事実があります。
レコードの表面に刻まれているのは、外周近くから始まって中心近くで終わる、1本の連続した螺旋です。曲ごとに別々の溝が用意されているわけではなく、A面なら A面の全部が、途切れずにつながった1本の線として刻まれています。
あの細い溝1本に、音の波形がそのまま形として残っている。デジタルの音源が数字の並びとして音を記録しているのに対して、こちらは物理的な凹凸そのものです。針がなぞっているのは、録音されたときの空気の震えの形、ということになります。
いま、また作られている
レコードは一度ほとんど作られなくなり、そのあと増えに転じています。
日本レコード協会の統計によると、国内のアナログディスクの生産金額は、2025年に80億円を超えました。この水準は1988年以来37年ぶりで、数量・金額とも5年連続でプラスになっています。
ただ、最盛期と比べると桁が違います。生産数量の過去最高は1976年の1億9,975万2,000枚、生産金額の過去最高は1980年の1,812億3,800万円です。約2億枚と1,800億円。いまの80億円台は、そこへ戻る途中というより、まったく別の規模で新しく増えている数字だと考えたほうが実態に近そうです。
音楽を聴くだけなら配信のほうが速いし、安いし、持ち運べます。それでも盤が作られ続けているのは、聴くまでの手間ごと楽しんでいる人がいる、ということなのだと思います。
針を落とす前に、必要な予習はありません
ここまで書いておいてなんですが、レコードを聴くのに予備知識は要りません。回転数は盤やジャケットに書いてありますし、分からなければその場で聞いてもらえれば大丈夫です。
アムでは、レコードをかけられるようになりました。本を読んでいる横で何か流れている、くらいの距離感です。かけてほしい盤があれば言ってください。
デジタルの側の話に興味がある方は、AIやデジタルの入門を扱っているデジタルラボ金沢のページも覗いてみてください。音を数字で記録するのと、溝の形で記録するのと、やっていることの違いを考えると少し面白くなります。
アムは金沢市東山にあります。近くを歩いてから寄る、という順番でも大丈夫です。あたりの様子はひがし茶屋街の歩き方をまとめたページに書いています。
参考にした資料
- Phonograph record – Wikipedia(1948年6月21日のLP発表、10インチと12インチ、片面20分以上、1949年のRCAビクター45回転盤、War of the Speeds、1950年1月と1951年2月の相互採用、溝が1本の螺旋であること、78回転の速度の由来が不明であること)
- 78 rpm – Wikipedia(1912年のグラモフォン社による標準化と1925年ごろの業界標準化、シェラック製であること、10インチ約3分半・12インチ4〜5分という収録時間)
- アナログディスク 生産数量・金額推移 – 日本レコード協会(生産数量の過去最高1976年1億9,975万2,000枚、生産金額の過去最高1980年1,812億3,800万円)
- アナログレコード生産金額、37年ぶり80億円超え – PHILE WEB(2025年の生産実績、5年連続のプラス成長、1988年以来37年ぶりの80億円超え)
