ボードゲームには年間大賞がある|脱落しない遊びが増えたわけ

ボードゲームには年間大賞がある|脱落しない遊びが増えたわけ

ボードゲームで遊ぶ会に誘われたとき、少し身構えてしまう人は多いと思います。ルールが難しそう、強い人がいたらどうしよう、途中で負けたら気まずいのでは、と。

ですが、いま遊ばれているボードゲームの多くは、そういう気まずさが起きにくいように作られています。しかもそれは偶然ではなく、四十年以上かけてそうなってきた、という経緯があります。遊ぶ前に知っている必要はまったくないのですが、知っておくと最初の一戦が少し気楽になる話をまとめました。

ボードゲームには「年間大賞」がある

ドイツに「Spiel des Jahres(シュピール・デス・ヤーレス/年間ゲーム大賞)」という賞があります。1978年にニュルンベルクで設立され、翌1979年から受賞作が選ばれています。

選ぶのは、ドイツ・オーストリア・スイスのドイツ語圏で活動するゲーム評論家やジャーナリストの審査員団です。メーカーの投票でも、売上ランキングでもありません。過去1年間に発売されたゲームを実際に遊んで、審査員が議論して決めます。本でいう文学賞に近い仕組みです。

受賞すると桁が変わる

この賞の影響力は数字にはっきり出ています。ノミネートされるだけで、それまで500〜3,000部ほどだった販売数がおよそ1万部に伸び、大賞を受賞したゲームは50万部前後売れるとされています。

賞の目的は「家庭で遊びやすいゲームのデザインを評価し、良いゲームをドイツ市場に広めること」でした。つまり、マニア向けの難しいゲームを称える賞ではなく、家族や友人が食卓を囲んで遊べるかどうかを見る賞として始まっています。ここが、その後のボードゲームの作られ方に効いてきます。

第1回の受賞作は、サイコロを振らないレースゲーム

1979年の第1回大賞に選ばれたのは、イギリスのゲーム作家デヴィッド・パーレットが作った『Hare and Tortoise』でした。イギリスで最初に出たのは1974年、Intellect Games社からです。

面白いのは、ドイツ版のタイトルが『Hase und Igel』——直訳すると「ウサギとハリネズミ」になっていることです。英語版のタイトルはイソップの「ウサギとカメ」ですが、ドイツではグリム童話の「ウサギとハリネズミ」に置き換えられました。同じゲームなのに、国によって下敷きにしている昔話が違う、というわけです。

中身も変わっています。すごろくのようにサイコロを振って進むのではなく、「ニンジン」を支払って好きなだけ前に進む、という作りになっています。ただし進む距離が長くなるほど必要なニンジンは急激に増えるので、いくらでも走れるわけではない。作者本人も「前進はチャンスではなく技術で決まる」と書いています。

運任せの部分を減らして、選ぶ楽しさを残す。第1回の受賞作から、すでにその方向を向いていたことになります。

「脱落しない」が当たり前になった

こうしたドイツ発の作りのゲームは、まとめて「ユーロゲーム」あるいは「ドイツゲーム」と呼ばれます。よく挙げられる特徴は、だいたい次のようなものです。

  • プレイヤーの脱落がない(最後まで全員が遊んでいる)
  • 直接攻撃より、間接的なやりとりが中心
  • 運の要素を抑えめにする
  • プレイ時間は30分から数時間、1〜2時間くらいが多い

とくに一つ目が大きいと思います。子どものころに遊んだゲームでは、早々に負けた人が手持ち無沙汰に眺めている時間がありました。あれが起きにくい。負けているときも、最後の手番まで自分の番が回ってくる。

この作風は、戦後ドイツで戦争や争いを前面に出した製品が好まれなかったことが背景にある、と説明されることが多いです。直接叩き合うのではないゲームが受け入れられ、1970年代後半から1980年代にかけてドイツで一つの流れになり、フランスやオランダ、スウェーデンにも広がっていきました。

『カタン』が外に出した

この流れをドイツの外まで一気に運んだのが、1995年にコスモス社から出た『カタンの開拓者たち』です。作者はクラウス・トイバー。同じ年のドイツ年間ゲーム大賞を受賞しています。

サイコロで資源が手に入るので運の要素はありますが、他のプレイヤーと資源を交換する交渉が勝敗を分けます。そして、ルール上プレイヤーが脱落する仕組みはありません。41の言語版が作られ、いまも遊ばれ続けています。

日本では、2000年に400人から始まった

日本にも、自作のボードゲームを持ち寄って売り買いする「ゲームマーケット」というイベントがあります。第1回は2000年4月2日、東京の会場に約400人が集まりました。主催者は100人ほどを見込んでいたそうなので、想定の4倍です。

その後の伸び方が分かりやすい。2010年でおよそ2,200人、2016年春にはじめて1万1千人を超え、2026年春は2日間でおよそ3万2千人。「電源不要ゲーム」だけを扱うイベントとしては、かなりの規模になりました。

個人や小さなサークルが作ったゲームがその場で売られている、というのがこのイベントの特徴です。ボードゲームが、大きなメーカーだけのものではなくなっている、ということでもあります。

初めての一戦について

ここまでの話を、遊ぶ側から言い直すとこうなります。

いま出回っているボードゲームの多くは、家族や友人が囲んで遊べることを前提に設計されています。途中で脱落しない。運だけでも実力だけでも決まらない。1〜2時間で終わる。初めての人が混ざっても成立するように、作りの側で調整されている、ということです。

だから、事前に予習していく必要はありません。ルール説明はその場で聞けばよく、たいていは1ラウンド遊べば体で分かります。むしろ最初の一戦は、勝とうとしないほうが面白いことが多いです。

アムでも、ボードゲームを囲む時間をつくっています。初めて来た人と、そのとき居合わせた人とで卓を囲む形です。人と話す場という点では、読書会について書いた記事と近いところがあるかもしれません。どちらも、うまくやろうとしなくていい場です。

アムは金沢市東山にあります。あたりを先に歩いてから寄る、という順番でも大丈夫です。まわりの様子はひがし茶屋街の歩き方をまとめたページにも書いています。

参考にした資料